ウマ娘プリティーダービーの主題歌のコード進行を見てみよう!

みなさん!ウマ娘、見てますか!

というわけで、今日はウマ娘プリティーダービーOPのコード進行を眺めてみたい。以下のTOHOアニメーションご謹製動画の最初の方 "Make debut!" です。
youtu.be
あー、いいですねー……。わたくし、ガルパンとか競女とかこういう、ちょっと世界がおかしくなりつつ女子がいっぱいでてくるアニメ、だぁいすき!

まあ、ほんとのところはふと記譜ソフトをぐぐったらすぐに見つかったので試したかった。
musescore.org
はー、最近のはこれで再生もできるのね。いろいろできるんだなあ。充分じゃないですか。というわけでとりあえずTVアニメ「ウマ娘プリティーダービー」のOPを採譜してみたのです。アニメ中でダービーに勝った直後にモデルとなったスペシャルウィーク号が死ぬという衝撃、追悼としてなにかしたいと思うのが人情じゃないですか。あと数日前にはスペシャルウィークちゃん誕生日がありましたのでそれも祝って。(つまりどちらにも間に合わなかった)

需要あるかどうかわかりませんが、コード譜のPDF置いておきますね。おおむね合ってると思う。
コード譜(PDF) MakeDebut.pdf

なぜウマ娘なのか

さてお聞きいただいておわかりのようにこの曲、超難解作品というわけでもなく、とても聴きやすい、馴染みのあるアニソンって感じですよね。だからかえってそれがいいと思いました。

以前、あるカリスマ的シンガーソングライターのコード進行について話している掲示板だかなにかを見たら「さすが◯◯◯さん!やっぱりここでこのコードは誰も思いつかないですよね!天才だと思います!」みたいな空気になっててさ……。いやそれはわりとよくある代理コード……なんだけどな……。多分褒めるべきはそこじゃない。

といったように、ひとりの天才の、名曲の、秘密を探る!褒めそやす!という方向性ではなくて、むしろ普段ぼーっと聴いているような曲がどんなことになっているのか、この曲を軸にテクニックみたいなものを見ていくのもいいかな、と。細かく見ているうちに「ん?これは…?」「シェフ、いい仕事をしたな…」みたいなものもわかるようになる、かもしれない。

なるべく、音楽理論とかよくわからないひと向けに書いてみるけど、まあ……雰囲気だけ味わってもらうだけでもいいです。

調性と音程

まず全体の調性、カラーを概観しましょう。冒頭ファンファーレから始まりますが、これは調性、キーとしてはGメジャーです。
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「ん?その#が付いてるのはなに?」と鋭いあなたは思うでしょう。五線譜とかピアノとかはC中心としたキー、ハ長調が基本になってるのね。だからキーをGにしたときにはアジャストする必要がある。このFに#をつけるのがそれです。

あとで出てきますがAメロはDbメジャーです。

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「なにこれ全然違うじゃん」そう、全然違うのです。なにしろGからDbは一番遠い音程(減五度といいます)。

なぜ一番遠いのか。まず音の高さは、ドレミファソラシ…の次にド、で「元の音に戻ってきた」と考えます。厳密にはオクターブ違うドなんだけど、まあ細かいこというなや。そうすると、例えばGからEを考えると、「EはGの長6度上」(ソラシドレミ、6個)とも言えるし「EはGの短3度下」(ソファミ、3個)とも言えるのです。(なんと音程の「~度」は1オリジン、GからGは1度の音程なのです。長とか短とかよくわからないおともだちはとりあえず今は気にしなくていいです)
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だから最短で言えばGとEは短3度。では…とGの真裏にあたる、日本にとってのブエノスアイレスみたいな音というとDbになります。上からも下からも同じ距離。
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「増なんちゃらとかなにやら度とか、なにがなんだかわからなイー!」とおむずかりのあなたは、まあ大体この辺音程の呼び方についてなんか定義があんだな、ぐらいで結構です。

しかしこの、なにもかも正反対だからこそ惹かれ合うといいますか、噛み合わない二人は神アイドルを目指すのといいますか、G7とDb7みたいな関係を「裏コード」と呼んだりするくらいで、ある意味「よくある意外性」みたいな感じもします。すごく難しい漢字、という話題ですぐ「鬱」とか「林檎」が出てくるのでかえって覚えてる、みたいなものです。

だから、転調するからといってただちに「GからDbに!?すっけえ!」って話ではないよ、と。そんなに一般的でもないとは思いますが、あるっちゃあある転調。わたくしも恥ずかしながら以前そういうの作ったことある。楽譜配っても「ああ、減五度に行くのねハイハイ」と普通に演奏してくれる(ベースとギタリストは)ぐらいの感覚です。

ただ、そんな遠いところへ行って戻ってくるのをこう自然に聴かせるにはもちろんテクニックが必要です。この後もそのあたりが肝になるかと思います。

サビの進行

やっと歌が入ってきました。「響けファンファーレ」とちょっとろこどるっぽくスペシャルウィークちゃんが歌ってるところですね。
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あっ、ちなみに、この記事の音データはベースラインとかヴォイシングとか完全にテキトーよ? まあこんなコード進行というのがわかればいい、というあれであって完コピじゃ全然ないから(聞きゃわかるか)本気にしないように。

まずまだここまでGメジャー上のコードが基本骨子になってはいますが、すでにいくつか逸脱がある。

Gメジャー上のコード(ダイアトニックコードと呼ばれます)ってのは、こんなやつです。
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Gメジャースケールの上にこうして団子を重ねたやつね。M7、m7とかはコードネームというやつで和音内の構成(根音からの相対でどういう高さの音の集合か)で決まってきます。例えばGM7 ソシレファ#のファ#をナチュラルにするとG7になる。Am7とBm7は、根音(ルート)がAかBかの違いだけで構成としてはまったく同じというわけ。

下段のローマ数字は、キーの音(この場合G)から1, 2, 3…と数字で表すやり方。キーが◯◯の場合のこのコードが…といちいち言うのは面倒なのでそこを抽象化してどのキーに対しても言える性格を表そうとしている。ええ、それぞれキャラクターの性格があるんです。IM7は主人公格、V7は銭形警部でIM7を追っている、IIIm7はいつもカレー食ってる…みたいな。

さてこれでさっきのコード進行を表すと、こうなります。
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IM7は先ほども言った主人公的な性格で、これをTonicといいます。安定、正妻の余裕と言ってもいい。しかしいきなりVIIm7b5 III7 で平和がかき乱されつつあります。「ゴ~ルま、でー」のとこね。この進行はアニソンやJ-POPなどでド頻出。ちょっと切ない感が出るんですよね。2,3思い出してみましょうか、うーんと……

  • アイカツ!「カレンダーガール」のサビ「なんてことないまいにちがー」
  • Tiger&BunnyのOPサビ「オーリオンをな・ぞ・る」
  • キルラキルのOP「シリウス」の「つーきあーげたこの手に」

アイドルマスターシンデレラガールズStar!!の冒頭もそれか?と思ったけどVIIm7と5度がフラットしてないのがちょっと違う。まあ、仲間。たまたまかもしれませんが、「ここぞ」というところで使われてますね、これらは。

ピンと来ないひとはとりあえず「ゴ~ルま、でー」の感じ、とおぼえておくといいでしょう。

で、VIIm7b5はGメジャー上にあるけど、III7はない(IIIm7だったらあるのにね)。じゃあなんだこいつは、どこから来たんだという話になりますが、こういう場合、

  • なんか今日はそっちのほうがいい気がしたからm7を7にしてみた(結構こういうこと、よくある)
  • 前後を見ると辻褄が合ってる
  • 間違えた

いずれかだと思いますが、一応この場合2番めの辻褄が合ってる典型的な例です。

VIIm7b5まではGの世界なんですが、実はこやつ、元のコードでF#m7b5はEmのキーのコードでもある。そっちの世界ではIIm7b5として君臨している。まあ掛け持ちですな。Gの世界ではIII7だったB7はEmではV7である。というわけで、なめらかにEマイナーの世界に移行してしまうのです。
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VImに行く間、ほんのわずかな時間だけど転調している。こういう、どっちのキーにもあるコードを中継として別のキーに転調するテクニックはよくあるんですが、そういうコードをピボットコードといいます。F#m7b5がピボットですね。またIII7みたいに、元のスケール上のコード(この場合Em)に行くためにm7などが7化したものを「セカンダリードミナント」と呼んだりします。

ついでに言うと、わざわざセカンダリードミナントのIII7に行かなくてもいい、って考え方もある。VIIm7b5からVImに行きたいんでしょ?直接行けば?というね。G F#m7b5 Em っていうのね。こうするとベースラインがGのメジャースケールをただ降りていくという形になって、それはそれで自然な手です、はい。(将棋の大盤解説風)

で、行った先のEマイナーは、というと、これはGメジャーと非常に親密な関係にあります。Gメジャースケールを6番目から並べるとEマイナースケールになる。平行調というやつですね。
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これは、なんていうんですか、家出すると書き置きがあって驚いたが親戚の家にいた、ぐらいの、まあそんなに騒ぐことでもないか、ぐらいの感じです。

ツーファイブ

しかしこやつ、またやるのです。常習犯ですね。こんどはDm7 G7。これは明らかにCのキーでのツーファイブ。ツーファイブというのはIIm7 V7 のことで、こんな小洒落た呼び方があるくらいで、とにかく典型的な進行なのです。よく訓練されたバンドマンなら「F#m7b5からのツーファイブでEmに行って、そのあとCのツーファイブね」でこのコード進行の概要伝達が可能です。
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例えば、ゆるキャン△のイントロで、思いっきり「はい、ツーファイブでございます!」とリトルマイケルがお辞儀しそうなやつがありますね。

あー、親の顔より聴いたツーファイブ。もうこういうのって、サウンドの記憶の話だから「こんな感じがツーファイブ」って覚えてしまうといいよ。キーがいろいろあるったって、たかだか12個しかない。

次の画像は5度圏、Circle of Fifthsというこの手の話に必ず出てくる円なんですが、完全5度ずつ音程を並べたものです。
Circle of fifths deluxe 4
ツーファイブワン、といったらこの円の任意のひとつから時計の逆周りに3つ取り出して並べればいい。

Dm7 G7 C Gm7 C7 F Cm7 F7 Bb Fm7 Bb7 Eb
Bbm7 Eb7 Ab Ebm7 Ab7 Db Abm7 Db7 Gb C#m7 F#7 B
F#m7 B7 E Bm7 E7 A Em7 A7 D Am7 D7 G

...と、結局12種類しかないのがわかるでしょう。ユー、おぼえちゃいなよ。というかジャズとかやってるともう否応もなく覚えざるを得ず、ひと目でそれとわかります。

このC#m7b5はなに?

さて話をもどしましょう。ここまでのあらすじ(まだ冒頭10小節ぐらいしか経ってないですが)。

響けファンファーレといいつつGで安定していたら、Emへのツーファイブ、F#m7b5 B7 Emになった。でもこれは大した家出ではなかった。しかしその次にDm7 G7 が来た。これはCへのツーファイブだった。

Cというと、元のキーGにとっては、4番目のコードCM7。IVM7です。IVというのは主人公Iにとって馴染み深いおじさんぐらいかな。よくわかんないな。ともかく良く出てくるコードではありますし、この曲の展開は違いますが、とりあえず「サビ頭はIV」って曲たくさんありますね。例えばSHIROBAKOのOP、前半後半両方ともそうじゃないかな。のんのんびより りぴーとのOPも多分そうだな。ジャズ・スタンダードだとTake the 'A' trainとかね。まあとにかくいっぱいある。

そして、そのIVに「行くために」、IVに「いくぞ、という雰囲気を盛り上げるため」に、IVにとってのツーファイブをその直前に持ってくるというのはとてもよくあるテクニックです(IVに行くためのV7も、セカンダリードミナントということになります)。一時的にDm7 G7、つまりIVのキー(ここではC)に転調する。こういう風に、転調といってもミニマムな世界では結構みんなころころやってんのね。「転調、すぎょい!」ってそのたびに痙攣しなくてもよい。

ただ、ちょびっとであれ転調するということは、Gメジャースケールの音じゃない音が入ってきている。さきほどのF#m7 B7 ではD#がそうです。このDm7 G7だったらナチュラルなFです。D#はメロディには出てこないけど、このMake debut!ではFの音が印象的に出てきます。「輝く未来を~、きみーと」の「みー」。そりゃ印象的だよ「ちょっと変わったよ?」ということを典型的に示す音だもん。

ただこういう臨時記号を多用すると、当然メロディは難しくなりますね。ボーカルがGメジャーのフィーリングだけをずっと頭に置いてるとちゃんと歌えない。うっかりナチュラルじゃなくてF#にしちゃったりね。こういうの、採譜してるときにもよくあるね、コードの流れをちゃんと頭にインストールせず採ろうとして「まあ結局Gスケールだろ?」なんてやると間違える。「え、お前その半音聞き取れなかったの?うぷぷ」ととても恥ずかしい。でもさー、まあ人生いろいろあるよ。

で、その例になりそうなのが、そうです、7-8小節目のC#m7b5です。「Dm7 G7ときたから、まあCだろ」なんて適当に押さえると「あれ、なんか違う…」ということになる。この、微妙にあとに余韻を残すコードはなに?
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そう、これ、CM7のルートを半音上げただけの音なのね。理論の本なんかでは「構成音が似てるからCM7(IVM7)とだいたい一緒」なんて書いてあって、似てるからで済まされたら他のコードも全部似てるよ!と思うわけですが、まあそういうことらしい。馴染みのおじさんからあこがれの先輩ぐらいにはなったが立ち位置は変わらない、みたいな。

実はこの#IVm7b5、わたくし、だぁいすき!なんですよね。IVM7の代わりに持ってくると、かなり切なさ炸裂コードになる。例えば、ほんの一瞬だけどガルパンのDream Riserのサビ「破れそうなー鼓動」の「なー鼓動」のところで、ごく僅かに切ない匂いを、嗅ぎ取れるかな? 「踏み出した空に」あたりから問題のコードまで弾くとこんな感じ。

あとねあとね、GJ部のED3の綺羅々のやつ、大丈夫?ついてこれてる?ついてきてね!?この曲はBb C7 Am7 D7 Gm7 C7 F いわゆる王道進行とか逆順って呼ばれる進行を繰り返しているけど最後の最後「La Laいつかは、La La出会うよ」の直前、Bm7b5 Bb7 Am7 D7 になってるのよ。このBm7b5が#IVm7b5。この切なさだよね。この王道進行の変化はラストに一度だけ使うと効果的。

そして#IVm7b5は、IVのルートがちょいズレたやつでもあるし、トニックIの代理でもあるんだってさ。多分IVの音がなくなったのでトニック感を壊さなくなったんだと思う。ルートを半音上げるだけで、IVの代理でもあり、Iの仲間でもある、という不思議な立ち位置になるんですね。しかもキーのIからすると#IVは、そう、最初のほうにご説明した「一番遠い音」。多分主人公に「キミは、ボクだよ」とかわけわかんないこと言うタイプだと思います。

まとめると、Dm7 G7でIVの世界にちょっと転調したものの、着地点はCにも似てるしGの仲間でもある、C#m7b5だった。この外に行ったんだか戻ってきたんだか微妙な宙ぶらりん加減が、「終わったような…なにか余韻をもたせるような…」という雰囲気を作っている。学びましたね。こういう感じを出す時は#IVm7b5です。

分数コードとペダルトーン

なんだかんだ言って、結局この8小節ではほんの少し逸脱があったものの概ねGの調性感で進んでいる、ということになりました。さてその次にブラス(トランペットとかの音)が入ってきます。冒頭のファンファーレとアカペラっぽいサビを経て、ここが本来のイントロになるようなパートですね。
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わあ、分数コードだ!と逃げなくてもよいです。だいたい分数コードというのは、

  1. コードはこうだが、その構成音をベースは弾いて欲しい
  2. コードはこうだが、とりあえず関係ない音をベースは弾いて欲しい

のどちらかであって、まあぼっちな人は一人で全部の音を出すしかないから頑張ってGの音とFのコードすなわちソ+ファラドを弾くんだけれども、逆にバンドでやる場合はベース音はベースに任せたほうがいいです。特にピアノ!あんたは左手でベース音も弾いちゃう癖があるようだがベースと音が濁って(低音域はにごりやすい。ロウ・インターバル・リミットといいます)迷惑だから!なにを!?コンチクショウと大抵ベースと仲が悪い。

1の場合は転回形を指すと理解していいでしょう。ドミソのうち、ドを下に持ってくるかミを下にしてミソドにするか、みたいな話です。あと、例えば
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こんな、ベースが半音下がるだけのクリシェ(常套句)があります。スタンダードの「My Funny Valentine」とかね。アニソンでいうと…今パッと思いつくのでは、りゅうおうのおしごと!OPにも出てくるね。ガルパンOPの「根拠なんていつも」のあたりも*1。これ、コードネームをいろいろ書いてありますが、もっとわかりやすく

Cm Cm/B Cm/Bb Cm/A

と書いてもいい。というか「Cmだけどベースだけ半音階で降りて」て書ければ書きたい。まあクリシェなのでたいていはこのCm CmM7...を見たり聞いたりすれば「ああ、あれね」ということになるんですが。

ところが、2のパターンも結構ある。これは、分子のコードが主じゃないんですね。ギターやピアノは「あんたはF弾いてればいいから」と言われてまんまと思い込んで純朴にFを演奏しているが、ベースがGを弾くために、実はG7sus4になっている、みたいなことが起きる。
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Gの上に、コードトーンを載せてG7、さらに9thや11thなどのテンションをどんどん載せていくとファラド、というあたかも和音Fに見える組み合わせが出てくる。上空の音だけで天空の城みたいなことになるんですね。これを文字通り「アッパー・ストラクチャー・トライアド(UST)」といいます。

上記の例の最後、例えばベースがBなんて弾くと、つまりルートをBだと考えると、同じファラドなのに7th, b9th, #11thなんてテンション入りサウンドになる。これもUST。こういうときのメロディはFメジャーの気持ちではだめで、B7系列のスケールでないとハマらなかったりする。

逆に、ベースはずっと同じ音を弾いてるから君たち上空の民はそれに乗って上下したりしなさい、ということもある。ペダルトーンといいます。Make debut!の場合がこれです。ベースがずっとG。あるコードでは転回形と考えられまたあるコードではUSTだったりするかもしれませんがそんなに難しい話じゃない。まあG、F/G、Em/Gの場合、G, G7, G6と考えてもいいし「このへんはGミクソリディアンのサウンドで行きましょう」おっとモードの話はちょっとさすがに長くなりすぎますね、「つまりGを軸に、いろいろカラーリングしていく方針」ぐらいのざっくり感でもいいと思います。ベースは豚骨で上に載せるバリエーションが味玉入りかめんたいか角肉か、ぐらいの。こういうサウンド、ロケンローな感じでよく出てくるもんね。

オノデン

「じゃあEb Fや、あとこのイントロ最後の『じゃーんじゃーん、じゃーんじゃーん』ってロボット発進っぽいのは?」

はい、Eb, F。これらもおなじみの人にはおなじみのコード。アニソンでも昔から頻発。ちょっと年配の方なら「電器いろいろ秋葉原、オーノーデン!」といえばわかります。
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あるいはマリオとかね。ガッガッガッガガーオガイガでもいい。お父さんに聞いてみよう!きっと「ああ、サブドミナントマイナーだよなあれ」って教えてくれます。

理屈としては、これはマイナーキーから借りてきたコードです。今Gメジャーの世界だから、Gマイナーのコードね。
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前に「GメジャーとEマイナーは親戚みたいなもの」といった説明をしました。平行調といいましたが、「GメジャーとGマイナーも、似てる」というかまあだいたい同じだ(乱暴)ぐらいの勢いで、これを用語としては同主調といいますが、「ちょっとあっちから借りてきてくんないか」みたいなことが平気で行われています。

とくにマイナーキー側でサブドミナントと呼ばれる役目のやつ。まあ2階に住んでるお姉さんぐらいの距離感でしょうか。IIm7b5、IVm7, bVIM7, bVII7なんかがそうです。Gマイナーで言うとAm7b5, Cm7, EbM7, F7。これらマイナーキーのコードを、メジャーのところに使っちゃう。ここで言うとEb, Fがそうですね。一時的に短調に転調した、とも言えるとは思いますが、まあもうファミリーみたいなものです。これをサブドミナントマイナーといいます。少しね、明るい日常に差し込む哀愁みたいなところがあるんだよね。お姉さんだからね。

じゃあ最後の分数コードでロボット発進ちょっと田中公平先生っぽくも感じるあれはなにか。
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だいたい雰囲気としてはこんな感じだと思うけど、分数コードですね。まず最初の2つは、分子だけを見るとさっきのEb、Fのまんま。ただしベースが一音上になっている。この形は、さっきも説明しましたがF9sus4, G9sus4の響きになる。
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ミクソリディアン系の明るくてかっこいいサウンドになります。ベースの音の一音下から始まるドミソ、なので覚えやすいし。

そしてFから短三度上、Gからすると半音上ににいきなり転調してGb/Ab。コードの構成は同じだからほんとにただ上に上がっただけなのね。

だいたい転調って、正直ルールなんてないんです。どのキーからどこに転調するのか、いつ転調するか、もう自由。楽典を読んだひとはいろいろ言うかもしれないけど気にしなくていい。概ね転調の種類としては、

  1. 代理コードやピボットコードを使ってなめらかに、「気がついたら◯◯のキーになっていた」ように転調する
  2. いきなり転調する(昔はトニックで終止したときは可能、みたいなルールを読んだ記憶があるけど今やあんまり実情に当てはまらない)
  3. 間違えた

だいたいこんなところだと思います。結局、「その転調は今の時代、イケてるか?」だけが基準。あんまり「転調したぜ!」とこれみよがしにやりたくないひとは1にすればいい。ちょっとドキドキさせたいのなら2。

今回は2だと思う。しかもどんどん上行して「ああ、もうどうなっちゃうんだ…!」というめくるめく感もある。

なお、短三度上に転調するってわりとよくあって、(F, G) → (Ab, Bb)ってね、比較的耳が慣れてるんだよね。多分細かく考えればなんか理屈がつくんだと思う。(コンビネーション・オブ・ディミニッシュがどうとかで)

ただこのアレンジでは、Gb/AbのあとBbには行きません。上に乗っかるコードは同じく上行しているけど、注意深く聞くとベースはAbのまま足踏みしている。なにかBbに行きたくない理由があるようです。そう、AbはDbに対するVのコード。すなわち、Dbに転調したいから、という意図がわかります。Bbまで行っちゃうと着地先はFが自然になっちゃうからね。

さあ、やっとAメロ、Dbの世界に到着することができました。この分数コード群は、GからDbへのパスポートというか通路というかそういうものだったわけです。

Aメロは簡単に済ませよう

「駆け出しーたーらー」とスペシャルウィークちゃんが駆け出すところですね。
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Dbに転調してからは穏やかな、Dbのダイアトニックコードが並ぶ進行ですね。
IM7 IM7 IVM7 IVM7
IIIm7 VI7 IIm7 V7
VI7、Bb7だけがセカンダリードミナント。もともとはVIm7 (Bbm7)だったけど、IIm7に行くためにVI7 (Bb7)になったという、教科書の最初のほうに出てくるやつです。
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Bbm7とBb7の違いは、DbかDかの違いだけ。メロディーも、「いつでも~」の「も~」の音がDbではなくナチュラルのDになっている。

2ループ目は1ループ目と比べて、コード進行的にはわずかに違いがあります。F7#11のところですね。これもまあ、Fm7 Bb7のツーファイブでいいんだけれども、F7 Bb7とドミナント化してみた、というやつ*2。カラーリングの一種です。ファッションみたいなものです。メロディも「いちばん目指して」の「い」でこの#11の音、ナチュラルのBを使ってますね。こういう小技がね、今日のコーデいい感じ、はいシャッフルカラフルビューティフル。

いや真面目な話、「ここはDbだからBではなくDbのスケール上の音Bbを使うべきである!」べきである、ったってはじまらないからね。そのほうがおしゃれ、と思ったから今がある。IIm7 V7 はII7#9#11 V7にするとこういう響きになる、という新しいコーデを覚えたと思えばいいんじゃないかな。

さて、このパートは2小節余るというか足りないというか、4で割り切れない単位で次のパートに進みます。あ、ちなみにたいていの曲は4小節の単位で区切ると覚えやすい。なので楽譜もこのように1段4小節で改行します。たまに「スペースがあるから」と1段に6小節とか9小節とか詰め込むひとがいるけど、絶対読みづらい。例えば初見で演奏してもらうことの多いセッションなんかでそういう楽譜持っていくと誰かが読み間違えたりして切ないことになったりする。
また、「じゃあこの段は2小節しかないから」とずばーっと横に伸ばしたりするのも、これはわたくしの趣味かもしれませんが、NG。

  • 1段は4小節単位で改行
  • 1小節の長さは(実時間が同じなら)全体で同じぐらいの幅にする(上記の譜例はちょい短いけどソフト的にうまくできない…)

音符の幅もそうよね。長い音符はやっぱり広々と、短い音符は細かく並べる。これが逆だったりすると初見殺しの楽譜になります。

最後のAbm7 Db7は、DbにとってのIV、Gbに行くためのツーファイブ。Gb感を予感させて次へ。

最大の難所

さあやってまいりました。「勝利の女神を」のところね。
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まあ最初の4小節は、普通だ。Dbキーでいう、IVM7 V7 IIIm7b5 VI7b9、いわゆる4536の王道進行というやつですね。b5やb9は、マイナーに行くツーファイブで定番的に出てくるもの、特にIII VIには典型的。

問題はその次のEm B7。(ここからちょっとハードモードになります。読み飛ばしても良いです)誰しも「あ?転調した?」と思うやつ。これ私の採譜した音はそんなに間違ってないと思うけど、なんだろうね?ここは識者の意見を聞いてみたいと思う。
キーがDbから一時的にEmに行ってDbにすぐ戻ってくる。うーん……。

「さっきあんたが言ってた『いきなり転調』でいいんとちゃうの?」

と言われそうで、まあそれでもいいんですが、それにしてはDbに戻る部分が自然に聞こえる。いや無理矢理な転調なら、戻るところももう少し唐突感があるはずなんですよ。なにか、ちゃんと理屈があるように聞こえる。
B7はドミナントセブンスではなくDbにとってのbVII7というサブドミナントマイナーかもしれない。響き的にも納得はいく。で、EmはB7にとってのIm ?うーん……。

一応わたくしの現時点の考えでは、多少こじつけですがここの原型はBbmなのではないか。

GbM7 Ab7 Fm7b5 Bb7b9
Bbm7 F7 Db Db

これなら、DbはBbm上のIII、つまりImの代理だから、F7がBbmに解決しようとしてその代理のDbに流れた、と辻褄は合うように思う。

そしてこのBbm7 F7 が、裏のキー、そう、最初に書いた一番遠い音、Bbm →Em という転換があったのではないか……。この曲、GとDbを行き来する仕掛けだし、ここも裏コードなどに変わったんじゃないか……と思ってますが、全然違うかもしれない。ハハハ。

まあとりあえず、ここはハッとしますよね。そしていわゆる「めくれりゅ~」のところ、Bbsus4 D7も実はあんまり理屈的にはすんなり説明できない。かっこいいし体は納得してるんですけどね。頭が伴わない。こここそ、いきなり転調でもいいのかもしれないけど、なにか「ああ、そこはこういう前例がありますよ」なんていうのがあったら教えてください。

……と、わたくし的にいまいちスッキリしないコード進行を経て、Gに戻ってきます。

ラストの盛り上がり

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ここは冒頭のサビとほぼ同じですね。ですがラストの盛り上がりに向けて多少付け加わっている。これね、何度も聞いて思ったけどかなり感動的よ。ゆっくり演奏すると壮大になるし。

CM7 D7 Bm7 Bbdim はIVM7 V7 IIIm7 …と王道進行だけどBb dimとちょっとだけひねってある。これもバリエーションのひとつです。王道進行というのは誰かがネットで言い出したんだよね、ジャズ界隈だと「逆順」「4536」という言い方をするけど、基本形で言うと

CM7 D7 Bm7 Em7

最初のCM7をIIm7のAm7に置き換えて、

Am7 D7 Bm7 Em7

もあるし、最後のEm7をAm7に行くためE7にして

Am7 D7 Bm7 E7

最初だけもとのままで

CM7 D7 Bm7 E7

もあるし、前に説明した#IVm7b5を使って

C#m7b5 D7 Bm7 E7

もあるしE7を裏コードに置き換えて

Am7 D7 Bm7 Bb7

こうするとBm7からベースラインが半音階を下ってB→Bb→Aとなめらか……とまあ、組み合わせ的にいっぱいあるんですわ。そして今回みたいに

CM7 D7 Bm7 Bb dim
Am7

にした場合は、これはBb7がBb dimになった、というよりは「下降のパッシングディミニッシュ」で考えるのが普通かな。A7b9からAを抜くとBb dimになるんですわ。だから

CM7 D7 Bm7 A7
Am7 (D7)

が想定されていたと考えられます。A7はD7に行くためのドミナントね。まあ実際にはD7が出てこず、AmのあとはBm7になっちゃうんですが。こういうのもよくある。

ともあれ、ディミニッシュの響きも特徴的なので、慣れれば曲を聞いて「あ、ここはディミニッシュだ」ってすぐわかるようになります。

あとはブラスパートと同じでオノデンにたどりつく……と。ふう。おつかれさまでした。

長くなりました

なんかもっと気軽にやるつもりだったのに、こんなのゴールデンウィークじゃないと書けない分量になったなあ*3。ともかく、ここまでたどり着いた人が何人いるかわかりませんが、Make debut!を聞いてふわっと頭によぎることをだらだらと書いてみました。この間1分24秒、みたいな感じです。なにかの参考になったら幸いです。

*1:余談だけど、「マイナーメジャーセブン」というコードを知らないひとが3和音だけで説明しようとしてCmM7の代わりにEbaugを持ち出して(確かにCmM7からC抜きにするとEb augになる)余計難しくなってるページをいくつか見かけましたがなあに、全部Cmの仲間、カラーリングの一種です

*2:ちなみにII7はセカンダリードミナントではあるけどたしかダブルドミナントという呼び方があります。ほんと呼び名だけの問題なので気にしなくていい

*3:なんか疲れちゃってさ……。最初ゴールデンウィークスペシャルウィークでなにか上手いこと言おうとしてた気がする