SHIROBAKOの久乃木ちゃん

久乃木ちゃん登場


SHIROBAKO、いよいよ面白いですね。ほんといいわ…。

イカ娘やガールズ&パンツァーも大好きだし、P.A.WORKSも好きですから楽しみにしておりましたが、期待以上にゆかいで感動的なドラマになっておりとてもいいと思います。見るといいでしょう。

で、久乃木ちゃんですよ。久乃木愛。(キャラクター|TVアニメ「SHIROBAKO」公式サイト)

どうもこの子、12話にすでに出ていた(打ち上げに行く途中、動画検査の堂本さんと会話しているようなショットがありますが、会話してるなあ…)という話もありますが初めて名前が出るのは15話ですね、作打ち、監督との打ち合わせに登場する。

ちょっとセリフを書き起こしてみますね。

絵麻「難しいと思うけど、できる?久乃木さん」
愛「うぅ!?…うぅ…ぅぅ」
絵麻「…できない?」
愛「う!?…ぅぅ……(ぱくぱく)……うー」
絵麻「やるそうです。たぶん」
木下「あ、…そう…。ぁ他に質問ある?」
愛「ぅひぅ!…………」
絵麻「久乃木さん、質問ありますかって、監督が」
愛「……ぅー……」
絵麻「ないそうです」
木下「あ、そう……ほんじゃまあ、社長のカップケーキ良かったら!」
愛「ぅ…(絵麻を見る)」
絵麻「うん(うなずく)」
(愛、そっと手を伸ばす)
木下「…あとぉ、できれば次はひとりで来てね…」
愛「はひゅっ!ぐ…………」
木下「いやー、できれば!…ぐぐ、できればでいいから……それより作画のほう、よろしくおねがいしますぅーー…」

いやまいりましたね。このあと初めての打ち合わせの感想を聞かれて「かんとく…そで…むし…」と言うわけで、どうやら4文字は、久乃木選手4文字程度の単語なら行けそうです!

こういう、はっきりした単語ではない、呼吸だけの音で驚いたりしょんぼりしている様を表現するのを「息芝居」と言うらしいですが今回ほとんどそれなキャラで、声優さんにとってはちょっとやりがいあるんじゃないだろうか。どうなのか。大変なだけかな?ちなみに声優さんは井澤詩織さん、ガルパンのソド子やウィッチクラフトワークスでたんぽぽちゃんを演じた方ですね。個性あって好きだわ。

「やばい」の先は?


小動物みたいな面白い子が出てきたなあ、と見ていたわけですが実況ツイートなんかを見てますと、
「この子大丈夫か?」
「やばいだろ」
「よく就職できたな」
「かわいい」
最後は私ですが、まあ心配する声が結構あります。わからないでもない。面接とかどうしたんでしょうかね。作画だから実力で採用でしょうか。

「やばい」などの声には、「まっとうな社会生活はできなかろう」という意味のことを言う人もいます。特にこの激動の業界で働く人々の姿を描くアニメでは、人並み以上にバリバリ能力がないとダメなんじゃないか、というイメージは確かにある。やばいの先に続く言葉は「だから辞めろ」なんだろうか。

ただ…冗談じゃなくもしなにかの障害があったと明白に設定されていた、作中でもそれに触れられたとしたら。しゃべるのが苦手でも、なにか才能を活かすことができないもんかしら…なんてまじめに考えだすと、「……こういう子がいたって、いいわなあ……」大変だろうけれども。「こいつヤバイ」で切り捨てておしまい、じゃちょっとまあナンじゃないですか。居られるチャンスがあるようだと、いいなあ、と思ったりもします。

出てくるひとたちわりとみんな不器用だった

こういうキャラ、同じ水島監督の作品ではガルパンの「丸山ちゃん」がいらっしゃいますね。いつも不思議な方を向いていてしゃべらない子。こういうキャラ、監督は好きなのかな。まあちょっと、座敷童みたいな。一種の神童みたいな。なにかのお告げとか喋りそうですよね。

そう思って見回すと、あれ、SHIROBAKOのひとたちは……さすがに久乃木ちゃんほどじゃないにせよ、「不器用」がベースになってるひと結構居ませんか? 作中の木下監督だって、かなりの口下手ですね。

「おれ……みんなの前で演説って……苦手、なんだよな……」(2話)
「まず戦闘シーンは……ババーン!!ダーーン!」(15話)

宮森や音響監督にフォローされつつ、でも乗ってくると饒舌になるタイプ。あ、菅野(庵野)さんもこんな感じですね。

あのベテラン杉江さんだってそうだ。奥さんに

「あなたの悪い癖、いつも言葉が足りないか、多いのよ」

って言われたりしている。絵柄を器用に最近の絵に合わせることもできない。大倉さんも、紙と絵の具のひとだ。

新人声優のずかちゃんや18話の鈴木京子さんとかも、器用に立ちまわるタイプではない。(中の声優さんはそれを表現しているわけで、ものすごく器用だなあ)

逆に、「ぺらぺらぺらぺら、よく喋るなこいつは」という、タローとか茶沢とかは……まあ器用には見えないけど、信用もおけないという…最低じゃないか…でもタローはなかなかやるヤツなんじゃないか、今回18話の最後でやっぱり失敗してたけど。

「性不器用説」


こうしてみると、ここでは不器用な人間は、
「能力と信念があるがそれを上手く(業界や社会で)表現できないタイプ」
として描かれているような気がする。ゴスロリ様小笠原綸子がわかりやすいですね。能力があるが(仕事、社会の中で)上手く立ちまわれなかった。そのためにファッションで「武装」することで不器用さを克服した。

宮森たちメインの5人は「不器用」以前なんじゃないでしょうか。まだ能力もない。信念は?というと、他の子は「声優」や「脚本」というなりたいもの、そして「七福神」という目的があるけども…。宮森はこの後、ただ上手く立ち回れるだけの「器用なデスク」で留まるのか、「不器用ななにか」を手にすることができるのか……そんな話のような気もします。

さてだいぶ脱線しましたが、久乃木ちゃん。彼女がいいのは、「不器用」(というにはちょっと不器用レベル高いですが)でありつつ、「表現しよう」としているところです。知ろう、やろうとしている。

まあこれ絵麻ちゃんという先輩がまたいい子だからというのもあるんでしょうが、歯ブラシがどれくらい開いているか、とか、普通聞かないと思うのね。「袖に虫がいた」「弟の字に似てる」何いってんのこの子、ちょっとおかしいんじゃないの、などと言われ続けたりしていたら、嫌気がさして大抵しゃべらなくなると思う。(そして自分勝手に歯ブラシを描いて怒られて、なにもできなくなっていく……)

しかし久乃木ちゃんはひたむきに、表現しようとする。

PVの自分の描いた部分も、恥ずかしいけどそっと絵麻ちゃんの肩越しに見ている。見たいんですよ。表現したいし、それがどうなったか知りたい。
さっき不器用な人間を「上手く表現できないタイプ」と書いたけれども、アニメを作るひとは実は大抵そうなんじゃないか。

「表現したいものはあるけれどそれをどう表現していいかわからない」

天才的に器用なひともときどきいるけれども、基本的には不器用なんだよね、だから、非効率的かもしれない手段で、こうして作っているのですよ、と、監督は各不器用なキャラクタを通じてその「表現できない不器用さ」を表現しているのではないか。つーか、人間がそもそもそういう不器用性があるんじゃないか、そんな性不器用説を唱えてるんじゃないか、そんな気がしてきたわけです。


これからアニメは大詰めを迎えます。宮森だって、タローだって、もしかしたら茶沢だって(個人的にはずかちゃんに期待したい)「え、このひとがこんな活躍を!」って余地は十分にあります。その中で私は、久乃木ちゃんがなにかを見せてくれたら、いいなあ、そんな期待をしています。

そう、あの伝説の「薬莢……捨てるとこ」みたいな。