たまこラブストーリーを褒める
たまこラブストーリーを褒めます。いやあ、良かった。
ここでは、この映画について数々の疑問点にお答えする形で進めてみます。ネタバレはない方向で。多少あっても「なに、そういう映画なのか。じゃあ見よう」とむしろ扇動翼賛するつもりでいたい、と考えています。
たまこラブストーリーはコメディなのか
本編と同じような、あの鳥がひっかきまわしてはい、元通りのコメディ映画なんじゃねーの?そんな疑いを持っていた人もいたんじゃないかな。でもまあ、さすがにここ数日の評判を観て「どうも様子がおかしい…」と思い始めたころだと思います。あなたの予感は残念ながら正しい。あなたが望むコメディは同時上映「南の島のデラちゃん」でひとつ。
予告編はネタバレと違うんか
これね。
「見せ過ぎだろう」という声がありました。それは「男が告白したらそこでおしまい」系の考えですね。ギャルゲーとか好きそうですね。例の、結婚はゴールかスタートかみたいな話でもあると思う。
つまりこの予告から、もち蔵が告白したというのがクライマックスではない、と映画の意図を理解して欲しい。男の子主人公の男の子頑張れ映画じゃないんですね。
「言いたくて、言えないこと」
RPGでいうとラスボスを倒しました、で終わる映画じゃない。倒した勇者は向かいの餅屋の息子だった、さあ姫はどうする?という映画です。ちょっと違うか。でもそうよ。黙ってたら勇者はまたどこかに冒険しに行っちゃうんだよ、という。
当たり前すぎて、気づかなかったこと。これに気づいていく、言いたいことを見つけていく映画なんです。新しい世界での、女の子の冒険の始まりです。
たまこはブレるのかブレないのか
たまこはブレません。そりゃそうだよ商店街で一生餅こねてれば理論上永遠に生きていけるんだもの。一方もち蔵は、父ちゃんああだしなあ。しっかりしないといけないよね。
それにたまこにはギャグ特性がある。この映画にもその能力は存分に活かされているのですが、なんでもかんでもギャグで流すわけじゃない。たまこだってただの餅こねてるだけの女じゃない。
たまこをブレないと思ってるのは、みどりちゃんたちもそうなんじゃないかな。どいつもこいつも、たまこを「ただ餅こねてれば幸せな女だ」って目で観てたでしょう。おいどうなんだ。
ところが…って話ですよ。あのたまこがブレるとき、走り出すとき、みどりは、かんなは、そしてもち蔵はどうする。
ラブストーリーをやりたかったのか
こう考えると、テレビ放映まるごと、この映画の伏線になっています。お后候補とか言われてでさえ、ずっとブレなかった彼女がブレる。なんだってー!?
ここでテレビ版EDを思い出すあなたは鋭い。あの「ねぐせ」って曲のやつね。映画の映像もちょっとこんな感じですよね。フォーカス合わせるような動きだったり被写界深度浅かったり。
いつもと違って髪を下ろしてちょっとドキッとする、「女」を感じさせる絵。
多分、たまこを餅が支配する餅空間から現実の、色恋沙汰の世界につなぎとめているのはあのほくろだと思う。根拠ないですが。特異点ですよね。意味わかってませんが。
いやあれがさ、肉体を意識させる、もうちょっとわかり易い言葉で言うと色っぽい、そういうアイテムじゃないですか。私はね、もうずっとほくろに注目してました。威張って言うことじゃないですが。
とにかくもうこれ、EDのころからスタッフがちょっとそういう「本寸法のラブストーリー」をやりたがってる、って感じするじゃないですか。
ただそれだけを1クールはしんどい。どうせすれ違いだのライバルだの必要になってきますよめんどくさいですよヘタしたらかんなちゃんが大工見習いと並んで鉋の刃研ぎ始めますよ。スコーンとスッキリさせたい。それには映画がぴったり。そこへ「たまこラブストーリー」という名前だけの劇場版CM。
「あっ、本気でやるんだな!」ってこっちも覚悟を決めるよね。
おしゃれなのか
そう、映像は細かい仕草や表情、指の先から眉の形まで絶品。たまこまーけっとのころから、例えばOPね。なにあれ。歩き姿からびっくり手のひら、鼻の下をこする仕草までなにからなにまで「女の子可愛いポーズ集」が発売できるクオリティ。
映画ではさらにそれに加え、京アニお手の物の背景などがEDみたいなおしゃれ映像処理されてる。参りましたね。
動きもいい。かんなちゃんの滑り走りは最高に良かった。
セリフ回しなんかもおしゃれだったね。最近のラノベやアニメなどで多い、笑いポイントを膨らませようとする過剰なツッコミね。ああいうのがない。
ってんで実写映画でもありがちな説明過多演出の罠を華麗に回避しているのがこの映画の良さ(上品さと言ってもいいかも)。例えばみどりの感情を台詞で説明するような野暮はしないし、もち蔵がコーヒーを飲む場面で「生まれて初めてコーヒーをブラックで飲んだ」みたいなダサいモノローグも入れないのだ
— 間借りさん (@magarisan) 2014, 4月 27
家族映画なのか
これはたまごまごさんが書いてて、ちょっと思うところがあったので。
「たまこラブストーリー」が、傑作だと確信できたのはなぜか - たまごまごごはん
家族映画としても観られる。なるほどなー確かにそうだとは思うんですが、しかし家族出せば大体家族愛みたいなものの話になりますよね。良い親だったら「なんていい親なんだ…家族愛…」となるし、クズであれば「なんてクズな親なんだ…家族愛…」ってなるし。
「とらドラ」で竜児の母やっちゃんやその両親が泣かせる、一方大河のオヤジはクズだ、だから家族愛アニメなんですよ!と言われちゃうとやっぱりなんか違う。いやそういう見方もできる、とおっしゃっているのは重々承知で。
見えにくい背景に居るものを見つけるとなんかすごく重要な発見をしてしまった気がしますが、心霊写真じゃないんだから。いくら壁の染みや植え込みが顔に見えるからと言ってもやっぱり主役は前景で緊張した顔の七五三娘だったりスイカ割りする少年でしょう。
ましてや、この映画は人生のスナップショットどころか一世一代の告白をする男される女のステージなわけですよ。そこで「いやいやお父さんお母さんどうぞ影の主役ですから」ってマイク渡されても変な歌しか歌えないよねえ。まあ、確かにいい動きをしたにせよ裏方に徹した見方でいいと思う。
ただ、あれね、そういう意味ではこの映画、「あまちゃん」とかの、絆とかそういうマスコミ的なあれ、いやなんだけど、そういう世界で成長する娘の話だね。
女性なのか
たまこまーけっとは、監督、脚本、キャラデザの三人に美術監督、色彩設計、音楽も女性で固めて、もともと女性による女性の、あらあら男子も観ていいわよウフフあ、どうもじゃひとつ失礼して、わーなんかいいにおいしるー、みたいなところはあった作品だったんだと思う。
あのデラとかいうのも、妹が買ってる少女漫画で今コレが人気って言われて「へえ……そうかあ?」「え、だってかわいいじゃん」「お、おう……」みたいなとこあった。
まあそういう意味で、TV版は、これ非常に失礼な発言になるかと思いますが妹やコンビニにいる店員マックにいつもいる女子高生、そういうひとが作ってる作品だと思ってみればこれほど微笑ましいものもないですよ。
一方映画は、というと、お姉さんだね。別にセクシャル狙いなものでもないんだけど、あらあらうふふ系のお姉さんが「ねえ、好きな子とか、いるの?」と一瞬の「おとなのおんな」の顔を見せた。「……やっぱり男の子ね」みたいなあれですよ、こう一瞬度胸というものを突きつけられた気がしてハッとする、でももう一度見るとやっぱり優しく笑っているという、参りましたねどうも。
あとね、これだけ付け足させてもらうと、洲崎綾良かったわ。洲崎西とかの下系のネタがどうとかネタにして、イメージが、とか綺麗な洲崎綾と洲崎西のあやっぺは別人とか言うけど、たまこも予想以上に洲崎綾だった。そういえばこういう子だった、と。たまこはあれきっと友達らとも初対面ながら「銭湯いこ?」とかいうストレートな距離の詰め方するよ。ウケるかと思って同じトイレに入ろうとするよ。
フォローするわけじゃないけど、洲崎西やシドニアラジオとかもよく聞いてると気立て良くていい子だよあの子。方向性がちょっとおかしいだけで。
北白川たまことか、満艦飾マコとか、第六駆逐隊とか、まあキャリアのわりに主役級を演じてきて、ぶっちゃけて言うと「洲崎綾はおいしい役もらってラッキーだったな」という感覚は今まであったかもしれない。でも、そうじゃないよね。声優としての実力や個性があったからだよね。そう考えると、この映画を境にして「たまこたちは、洲崎綾にやってもらってラッキーだったな」と感じていく、そういう時代になるんじゃないかな。
なぜ大絶賛なのか
さて、なぜこんなにも絶賛されているのか。いやもちろん映画がよく出来ていたから、青春というものをしっかり描き切ったからにほかなりませんが、あえて理由を他に探せばこれはあれですよ、見たいひとが見ているから。
たまこだけじゃなくアニメ映画こんなもんみたいですけどね、上映映画館24スクリーン。ちなみに中二病でも恋がしたい!劇場版が27スクリーン。けいおんがさすがに公開時から137、まどか☆マギカが前後編43スクリーンで新編が129スクリーン。
TV版の人気、「たまこラブストーリー」というタイトルからして、フィルターは掛かってるでしょう。ニコニコ動画ランキング1位動画によくいる「なにこれどこが面白いの?」みたいな人は多分見てない。
本編を観ていいわあ、と思った人、京アニならとにかく観るって人、そして本編はピンとこなくてもタイトルや予告を観て「あっ」これはいけるぜ!と思ったひと、そういうひとたちの期待にしっかり答えた結果だと思います。
そしてなにより、仮にたまこやもち蔵のような初々しいカップルがいたら、たまたま、ドジっ子の彼女が相棒劇場版やスパイダーマンと間違えて買っちゃったりして「ラブストーリーなんて照れくさいぜ…」「いいじゃん見ようよお(策略)」なんていいながら観たりしたとしたら。
そんな、通りすがりが入れていく高得点が、あったんじゃないかな。
あなたは観たのか
なんか、「お前ら、見ろ!」って大号令する気にはなれなくて。
「たまこラブストーリー……観てないわ」と言われたら、「……そっか」って寂しく微笑みながらコーヒー飲む感じ。でも悲しくはないなあ。
「観たよ」良かったよ、って人がいたら、なんかいいなあ、と思う。そんな感じです。